予備校講師採用試験に2回落ちた九大チンカス研究員の入試数学語り。

毒舌、下ネタ注意。※年々自信を失い、それに伴って毒もマイルドになってきています。

2017名大理系。

※本記事は、以前ヤフーブログ「予備校講師採用試験に2回落ちた九大チンカス院生の入試数学語り。」にて2017/2/28に掲載した同名の記事を、ヤフーブログサービス終了に伴い転載したものです。

 

難易度:標準

昨年比:若干易化

 

1、微積分、目標解答時間30分。

テクニックAB

計算量BC

発想力A

総合難易度B

 至って標準的な微積ですが、計算量が多い。最後の求積は普通に置換してもバウムクーヘンでやっても良いと思いますが、どっちにしろx^2logxが出て来るので、中々に重いです。

 悪問ではありませんが、数学的な技術よりも計算量の多さの方が目立ち、名大の問題にしては解いていて余り良い気はしませんでした。

 

2、確率漸化式(連立)、偶奇性、離散変数函数の不等式証明、目標解答時間35分。

テクニックBC

計算量BC

発想力B

総合難易度BC

 名大名物、偶奇性の絡む確率漸化式です。類題は最近だと2015名大理系4、2012東大理系2辺りでしょうか。

 (1)が偶奇性のヒントになります。

 (2)で偶奇性に注意しつつ本格的に漸化式を立てるのですが、設定のせいで全事象和1が使えないのがウザいです。連立漸化式も対称性等は無いので愚直にqnの3項間漸化式にするのですが、幸いな事に2項間に落ちます。しかし、係数が7/9と妙に間違ってる臭漂う値が出て来て(しかし正しいです)不安になります。この係数のせいで最初の方は一般項とズレが生じ、これが後々の議論で地味に邪魔を入れてきます。

 (3)は良いでしょう。

 (4)前半のtmを求める際の「1度戻ったら再度リセットされると考えsmが使える」ってのは、確率や場合の数の問題ではありがちな「見方を変えればこの確率(or場合の数)と等しいじゃん!」ってパターンのやつですが、この重厚な議論の中では若干発想寄りかも知れません。この種の議論は「完全順列」と云う問題の漸化式立式の際の処理が有名です。興味の有る方は是非調べてみて下さい。

 後半は離散変数函数の不等式の問題です。手法としては連続変数の場合(詳しくは2015阪大理系の記事をご覧下さい)に加え、

数学的帰納法

②比を考える。

辺りでしょうか。後は連続変数の手法の中では特に差を取る事が多い事も補足しておきます。本問は別に証明ではないので、帰納法は使い難いですが、比、差はどちらでも行けます。お好みで。

 さて、解いている間は(1)のイライラを引きずっていたせいで本問も処理量の多さばかりに目が行き、大分不愉快だったのですが、冷静になって見直してみれば、

・偶奇性。

・連立漸化式からの3項間漸化式の立式(しかも2項間に落ちて処理自体は減らしてくれている!)。

・最初の方と一般項のズレに注意!

・「見方を変えれば同じ確率じゃん!」

・誘導、結果の利用((3)の事です。態々小問にして強調しているところが、(4)のtmを求める際のヒントと言えます)。

・離散函数の不等式の解法選択。

と1題の中でポイント、作題者の気遣いに溢れた、試験、学習効果孰れの点から見てもとても良い問題です。

 決して易問ではありませんが、標準的な手法をその都度丁寧に使ってあげれば着実に解答出来る筈です。

 

3、空間ベクトル、パラメータ、解↔交点の言換、二次函数の解の配置、楕円、目標解答時間30分。

テクニックB

計算量B

発想力AB

総合難易度B

 空間ベクトルの問題ですが、適当な段階でパラメータに関する方程式の問題へと帰着します。

 (1)は良いでしょう。

 (2)(3)では、先ずは先に述べた通り交点を持つ事を、パラメータに関する方程式の解の存在へと言い換えます。本ブログで言うところの、「解↔交点の言換」です。式は二次方程式なので、二次函数の解の配置問題と見るのが良いでしょう。後は解のパターンについて場合分けし、丁寧に解いてあげるだけです。直観的に予想出来た方も多いでしょうが、楕円が噛みます。

 多めの処理量の中で沢山の分野の手法が導入される、名大らしい良い問題です。

 

4、有限集合、集合の公理的扱い、複素数の扱い(絶対値、偏角に注目)、1の冪根、(ユークリッドの互除法、)目標解答時間35分。

テクニックB

計算量AB

発想力D

総合難易度C

 標準的な受験生目線では文句無しの本セット最難問ですが、発想メインで記述量自体は多くなく、優秀な子は「は?大問2とかの方が遥かに難しかったんですけど。」なんて思うかも知れません。

 (1)ですが、先ず「集合の公理的扱い」とは、本問の様に集合に特定のルール(公理)を課し、そのルールの中で考えましょう、って事です。そのルールをしっかりと使えれば簡単なのですが、大学の数学科生なんかを見ていても、どうやらルールに従うってのが苦手な方が非常に多い様で、出来なくても大きな差はつかないかも知れません。本問に抵抗を覚える方は間違い無く数学科には向きません。逆に、こう云う問題、嫌いじゃないって方は、少なくとも学部レベルの数学科の数学には向いている可能性が有ります。理学部志望で未だ学科選択を決めかねている方は参考までに。

 (2)は先ず大きさに注目する事で、要素の内、実数は±1である事を示し、後の複素数は(Ⅱ)より「上半分(i.e.虚部の係数正)とその共役が1対1対応する」事が分かるので、要素の個数は、

 2+2×(上半分の要素の個数)

となり偶数と分かります。ただ、これも「何故実数要素は±1だけと分かったか?」「何故特に(Ⅱ)の共役に関するルールに注目したか?」等、問われれば返答に困り、かなり発想寄りです。

 (3)(4)は先ず集合の有限性に注目し、ここからMの各要素について攻める事を考えます。そこで各要素が複素数である事からその大きさ、偏角に各々注目する事で、要素の形を絞り込みます(詳しくは解答前半のClaim1,Claim2をご覧下さい)。ここ迄議論出来れば、(3)は1の4乗根、(4)は1の6乗根からなる事は自然に分かりますし、それ以外の要素((3)なら1の四乗根以外の冪根)が入り込めない事は明らかでしょう。実は同様の議論で要素の個数が一般偶数である場合も特定出来ます。

 さて本問、(1)(2)では既に説明しましたが、(3)(4)もここで行われる「有限集合→なのに○○じゃないと要素無限個」の議論は完全に大学数学科初歩レベルの手法である事、大きさ、偏角に関して勘を働かせるところ等、全体に渡り“数学的な頭の良さ”を必要とします。ものとしては完全なる数学科志望者の適性試験です。発想重視の問題ですが、幾重のポイントを突破する必要があるので、運や勘の良さだけでは完答は出来ないでしょうし、標準的な受験生間で大きな差を生じさせる問題ではないと思います。数学科志望でもない限り、出来不出来は余り気にされない方が吉かと。

 最後に、一般の場合のMの決定を(3)(4)のコメントの様に天下り的でなく、飽く迄構成的に行った完全オーバーキルな解答を載せておきます。勿論試験の答案には全く向きませんが、読むと1の冪根の扱いや整数問題に強くなれるかも知れません(笑

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 さて全体概評です。大取弱体化の影響で昨年比若干易化としましたが、相変わらず全体的に重厚で決して易しい試験ではありません。難易度的には1,3は完答したいですが、どちらも計算が軽くないので、そこでの計算ミス等を2の(3)迄で埋めて半分ちょっとも有れば合格者平均位行くでしょう。ボーダーなら前3問6割の3/4×6/10=18/40=4割半位だと思います。

 医学科は1,2,3完答は必須として、4の扱いが非常に困ります。頭良い子も多いでしょうし、この問題で差が付いて、7割半だと若干他教科で挽回が必要になるかも知れません。数学科向けの問題なのに一番影響を受けるのがお医者さん志望なのは、ちょっと可哀そうです。