※本記事は、以前ヤフーブログ「予備校講師採用試験に2回落ちた九大チンカス院生の入試数学語り。」にて2015/3/8に掲載した同名の記事を、ヤフーブログサービス終了に伴い加筆、修正し転載したものです。
難易度:難
昨年比:難化
1:(1)定積分込の不等式の証明(特別な不等式f≦g⇒∫f≦∫g、置換(積分区間を合わせる)、積分区間で評価(定数化));(2)定積分込の極限(適切な式変形&置き換え(部分積分&粗く評価)→挟撃)、誘導「結果の利用」(挟撃の不等式)。目標解答時間30分。
テクニックBC
記述量B
発想力BC
総合難易度BC
何と初っ端から今年の東大の大取の類題です。被積分函数が馴染みやすい分、若干こちらの方が取っ付き易いとは思いますが、使われる解法の量や組み合わせ自体は東大の大取と比較しても遜色ありません。
(1)は定積分の不等式の証明ですが、定積分同士の大小の比較に於いては、直接計算出来るものでない限りは積分区間が一致している事が必須条件です。そう云う訳でと置換を行う訳ですが、その後はいつも通りの引っ付いている函数を積分区間で定数で評価してやります(積分区間で定数化)。まぁ明らかに[0,1]区間に於いてですよね。
(2)は定積分の極限の問題です。東大の問題でも全く同じ事を書きましたが、定積分の極限の問題に対しては:
①積分計算を(ある程度)実行;
②挟撃、
の2つが主な武器となります。被積分函数にlogが混ざっている事から、本問も東大同様、部分積分です。部分積分実行後、面倒臭そうな正の値をぶった切って下から評価すると(さらっと書きましたが、こうやって粗く評価する姿勢も不等式操作に於いて非常に重要です)、案の定(1)で上から押さえた値と同じ値に収束するもので下から押さえられます。にしても、ヒントの不等式はいったいどこで使うつもりだったのでしょうか。謎です。
※(2)の別解として、積分区間を小さなところでぶった切って都合の悪い0の部分を分離し、最終的にその区間の小ささを0にしてしまうと云うものもあります。高校数学目線ではやや不自然な解法ですが、大学での解析学ではちょこちょこ使ったりする技術なので、知っておくと得する場面も在るかも知れません。良い問題なので、模範解答、別解併せて解説を載せておきます。
2:不等式の証明(2変数、適切な式変形&置き換え(平方完成、〇と見る)、微分(片文字固定))。目標解答時間30分。
テクニックC
記述量BC
発想力C
総合難易度C
1番に引き続き、2番も相当エグいです。不等式の証明問題は受験生でも苦手な方が多いと思われるテーマで、しかも本問は2変数。恐らく全滅してしまった人も少なくないと思われます。
さて、不等式の証明に於ける武器は基本的には以下の6つです:
①適切な式変形&置き換え;
ex1)条件になんて在ったら、なんてして1変数化を図る。
ex2)同次式 なんてのは、辺々で割り、等として1変数化を図る。
ex3)対称式やへの置換等(前者は実数条件に注意)。
ex4)平方完成等で常に0以上の項を作る。
②(大きい方)-(小さい方)等とし、函数処理を行い(最小値)≧0を示す;
※正確には、最小値ではなく下限ですが、高校数学の用語ではないし言いたい事は伝わると思うので。
③特別な不等式の利用
→相加相乗平均、凸不等式、、前問で示した不等式等。
④図形量(線分の長さ、面積、体積等)の比較と見る;
⑤粗く評価する;
→例えば、等の常に正(負)の項を切る等。
⑥最終手段の背理法。
本問も必要とされる解法自体は上で述べたものに限りますが、その組み合わせが複雑です。
先ず、与えられた式の形から二乗の塊を作りたくなるのは割と自然な発想でしょう。を2つにばらす事でとなります。ここで気付かないといけないのが、この値ってですよね(このって見方は時々使い、阪大だと例えば2015挑戦枠1(3)でも使いました)。この瞬間、左側の不等式は証明完了です。次に右の上から押さえる式ですが、ですよね。これで示すべき不等式はかなりすっきりしましたし、後は片文字固定し微分です。
本問は「①適切な式変形&置き換え」「②函数処理」と不等式の武器が2つ登場し、小問の無い形式で、しかも初っ端の式変形が1番の難関と云う、全滅のし易い要素をこれでもかと言うくらいにかき集めた問題です。所詮、在りがちな解法の組み合わせでしかないので、難問と称する程のものではないのですが、平均的なレベルの受験生なら、ここは捨てて他の問題に集中した方が利口だったのかも知れません。しかし、不等式処理に於ける沢山の解法が盛り込んであり、学習効果と云う点では非常に良い問題なので、これも解答を載せておく事にします。
※後で予備校の解答速報を見て気付いたのですが、本問はと置くと三角函数の割とすっきりした式になり、これも適切な式変形&置換の1つです。しかもこっちだと数Ⅲを使わずに解く事が出来ます。気付かなかったのが情けない限りです…
3:代数的操作(冪根)。目標解答時間15分。
テクニックAB
記述量AB
発想力AB
総合難易度AB
漸く馴染みの有る取れそうな問題が出てくれました。
(1)ですが、これはもう良いでしょう。出来ないなんて人は阪大理系どころか理系を名乗る資格も有りません。インフルエンザと麻疹を併発して利き手を骨折してケツの穴にバイブ2本仕込まれて紙ヤスリのパンツをはかされて受験していても本問(1)だけは落とせません。
(2)は少しだけ工夫が必要です。まぁ背理法なのは問題無いでしょうが、先ずp≠0を仮定すると、(1)の結果からq≠0も直ちに従いますが、ここから若干代数的な操作が必要です。
と3乗根だけ分離し辺々3乗すると、無理数としてだけ残りますが、こいつを再度分離するとが有理数として表せる事になり矛盾が生じます。一応、文字で割る時はその文字が0でない事には言及する様にしましょう。この様に移項、冪乗を上手く使って根号を1つずつ消す操作を“代数的”なんて言ったりします。今年だと他に名大2なんかで出題されていますが、名大の問題の方が難易度は数段上です。腕に覚えの有る方は挑戦されてみると良いでしょう。
糞みたいに簡単と言う程でもないですが、本セット全体の難易度を考えると、本問を落とす訳にはいきません。(2)含め完答必須です。
4:(1)求積(回転体(しかし回転体と明記されていない));(2)Maxmin(微分)。目標解答時間25分。
テクニックB
記述量B
発想力B
総合難易度B
(1)はまあ回転体なんですけど、でも回転って字を問題文のどこにも書いてくれていないんですよね。こう云う「回転っつってないのに回転体」問題は時々見掛けるので覚えておくと良いと思います。集合記号が書かれているのも、地味にびびりどころかもですね。
(2)はもう本当に只の数Ⅱの微分です。可愛らしい事この上無いですね。
(1)が地味に易しくはないかもですが、他の問題の難易度を考えれば、本問は落とせなかったでしょう。
5:オセロの並べ方に関する大型問題:(1)離散全称命題(帰納法(仮定の使い所がポイント)、帰納法内での場合分け)、対称性、対等性;(2)場合の数(直接数える、ダブルカウント注意)、誘導「結果の利用」(明示されていない結果)、目標解答時間60分。
テクニックC
記述量CD
発想力CD
総合難易度CD
オセロを題材にした、離散変数系統の大型問題です。
(1)はつまり「条件pを満たすとき、任意の自然数nに対して~」と言い換えられるので、これは自然数nに対する命題、つまり離散全称命題の証明となります。基本的な戦略は:
①数学的帰納法;
②剰余類、つまり偶奇やある数で割った余りで考え、全ての場合を尽くす;
③1度連続変数の問題だと思って考えてみる;
④直接示せちゃう;
⑤最終手段の背理法、
の5つでしょうか。取り敢えず各々について説明しましょう。
①は最早標語となっている、「自然数nの命題には帰納法」です。1993年の東工大前期4で「数学的帰納法で証明する。」と書いただけで部分点が1/3きたなんて話は、一部界隈ではとても有名です。この様に有名な数学的帰納法ですが、難しい問題に対してもこれを確りと使いこなせている受験生は意外にもそう多くはありません。具体的な注意点としては:
(イ)どの文字について帰納法を回すか?;
(ロ)アルゴリズム(二段仮定、全段仮定etc…)は如何するか?;
(ハ)仮定を如何使うか?
の3点です。
(イ)については、「そんなのnに対してに決まってんじゃん。」なんて声が聞こえてきそうですが、果たしてそうでしょうか。例えば問題文中に2つ別々に動く自然数が在ったりする場合はそうとも限らないのではないでしょうか。一例を挙げると、2007年の東大理系の1番なんかは、自然数の変数がnとkの2つあり、実際に何も考えず多くの受験生が飛びつきそうなnに対する帰納法で回そうとすると泥沼にはまり、kについて帰納法を回すとすっきりいくと云う問題でした。
(ロ)についてですが、二段仮定、全段仮定くらい迄なら最近はチャート式等にも掲載されており、必須事項となりつつありますが、その他だと如何でしょうか。例えば2009年の京大理乙の6番は、大学への数学でもD評価を下される程の難問でしたが、この問題のメインテーマが正に数学的帰納法のアルゴリズムに関するものでした。2009京大理乙6では先ずで成り立つ事を仮定し、その条件下でで成り立つ事を示し、nが2の冪の時は成り立つ事を示してから、その間を埋めると云うものでした。全く同じアルゴリズムのもう1つの使用例として、変数がn個の一般の相加相乗平均の不等式の証明が在ります。他にも、俺は以前何かの問題でを各々仮定し、を示すと云う、3の剰余類との合わせ技を使って上手く行った覚えが有ります。
最後に(ハ)は何を言っているかと言うと、易しい数学的帰納法の問題では仮定を使える形が直ぐに見付かる場合が多く、仮定の利用箇所について余り意識する必要が無いのですが、難しい問題はそもそも自分で仮定を使える形を見付け出そう、或いは無理矢理作り出そうと云う意識を持っていないといけない場合が多いのです。その好例が、先程挙げた1993年の東工大の問題です。この問題では、多項式の次数がkの場合で仮定し、k+1次の場合を示すのですが、何も意識せずに式を弄っていてもk次の多項式が登場せず、仮定を使う事が出来ません。是非ご自分で取り組んで、俺の言わんとしている事を体感してみて下さい。
②の剰余類はお馴染でしょう。参考までに同じ大阪大学の2013年の大問3を挙げておきます。
③は、例えば数列みたいなものを、nを連続に変化する変数xだ思って、を考え、微分等の函数処理を行うものです。例を挙げるなら、今年の東大文系の大問1の命題A等でしょうか。
④は良いでしょう。まんまです。
⑤は最終手段と言いながら、比較的よく使われる手法です。全称命題「任意のxに対し~。」を否定すると、否定した形の特称命題「~でない様なxが存在する。」になります。その様なxが存在するとして、矛盾を導くのです。また、離散変数の場合は数学的帰納法と合わせて利用する事も少なくありません。つまり「n=kの時の成立を仮定する。n=k+1の時、成り立たないと仮定して矛盾を導く」みたいな具合です。もう少しスマートに書き換えると、所謂「降下法」と呼ばれるものになります。
さて、前置きが長くなりましたが、取り敢えず本問(1)が②③でないのは良いでしょう。④や⑤はいけるのかもですが、俺は「①数学的帰納法」で解きました。ですが本問さっき注意した「(イ)仮定を如何使うか?」が中々難しい上、“k+1”の証明で場合分けが生じる等、方針が立った後も中々に手強いです。0と1の対等性に注意しながら、出来るだけ議論を減らしたいところです。
次に(2)ですが、先ずは前の小問について。前の小問は大きく:
①誘導「結果の利用」;
②誘導「方針の利用」;
③独立小問、
の3種類である事を意識して下さい。注意点としては:
(イ)①は単に答として得られた結果だけでなく、前問を解いている仮定で得られる情報を使う事も在る;
(ロ)誘導だと思い込んで如何使うのか考え込んだ挙句に解けなかったけど、解答速報を見たら独立に解いていた、つまり独立小問だった、
辺りでしょうか。まあでも本問(2)は流石に独立に解こうとしても手が付かないので、誘導でしょう。そして結論から言うと本問は(1)で得られた結果と、(1)を解いている過程で得られる情報の両方が必要です。
以上、詳しくは解答を見て下さい。
この年はかなり難しかったと思います。確実に取れそうなのが1(1),3,4だけなので、これ等の半分弱で普通にボーダー超えたと思います。もう一寸頑張って6割取れていたら普通に合格者平均も越えたのでは。2,5は普通に全滅しそうな問題ですし、実際そうだった人が多そうです。